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「悪魔を見た」レビュー①


じゅえる的に
感じたことを書きました。


レビュー①です。




。。。。。。。



「平凡な人間が絶対悪に出会ってしまった場合、どのように絶望し、破滅していくのかを描きたかった」

インタ記事のひとつに、こんなジウン監督の言葉がありました。


ギョンチョルに何度も何度も繰り返し苦痛を与えるスヒョン。
金を与え、応急処置を施し、ギョンチョルの命を繋ぎ続ける。
まるで獲物を半殺しにしては逃がし、また死ぬほどの恐怖の目に遭わせるゲームのように。

スヒョンは、そうやって、ギョンチョルに自分の存在を焼き付けさせていくのです。

得体の知れないスヒョンに、すっかり虜になったギョンチョルは、残酷なゲームとして楽しもうと思います。


ビニールハウスで、最初の対決を果たす二人。

窒息させられ、鎌で切られ、頭を石で強打され、意識を失ったギョンチョルを、大きい石を振り上げて、トドメをさすのかと思いきや、やめるスヒョン。

このときのスヒョンの表情は、苦悩に満ちています。

この男が、ジュヨンをあんな目に遭わせたのか…という膨れ上る憎悪、ジュヨンを失った悲しみ、悔しさ、すべての感情が噴出したスヒョンの顔は、胸を締め付けます。


スヒョンは、殺してはいけないと人間的に思いとどまったのではありません。
ようやく復讐が始まったばかりなのです。
このときのスヒョンは、殺せないのではなく、殺さないのだと思いました。

ここで、ひと思いに殺してしまっては、ジュヨンの無念を晴らすには、あまりに足りない。

――ジュヨンの受けた苦痛の千倍万倍を与えてやる。

激情を鎮めて、冷徹な復讐者になりきろうとしているスヒョンの心に中に、悪魔が棲みついたのです。

怒りと絶望のMAXを味わったスヒョンは、復讐の最高地点を探します。

どうしたら、ギョンチョルに対して、完全な復讐をとげられるのか。
恐怖を感じないギョンチョルが、実は一番執着している生。
その生(命)をどこで、どのようにして絶つことが、もっとも、この復讐にふさわしいのでしょうか。


一方で、そんなスヒョンに対抗するギョンチョルは、スヒョンがどうしたら、苦しむのかを、本能でかぎわけ、行動に移します。


ギョンチョルは、悪魔のような所業を繰り返す欲望むきだしのケダモノです。
いや、もしかしたら、それは、嫌になるくらい人間的なのかもしれない。
最低最悪、欲望の権化みたいな、悪魔にさえなれてしまうのが、哀しいことに、人間なんですね。


GPSを体内から出したギョンチョルを見失ったスヒョンの行動、すごくもどかしかったですよね。

ギョンチョルは、スヒョンに、ジュヨンが妊娠していたことを告げます。
悲しみと怒りに震えるスヒョン。

ギョンチョルは、ジュヨンの家も知っていました。
このとき、スヒョンは、すぐ、ジュヨンの家族が危ないと気付くべきだったのです。

しかし、残念ながら、彼は、優秀な国家情報捜査官ですが、普通の人でした。

今までは、GPSで居場所を確認し、盗聴していたから、すぐ駆けつけることができたけれど、GPSを失っては、悪魔のようなギョンチョルの考えも行方も、わからない。

捜査官としての思考をめぐらし、ギョンチョルの行動を知る猟奇仲間に会いに行きます。
そして、猟奇仲間から、ジュヨンが凌辱され、惨殺されたことを聞かされるのです。

涙をためながら、スヒョンの怒りは、最頂点に達します。

このときの、スヒョンの無茶ブリは、スゴイ。

もう、やめなはれ~~~!と、スクリーンに叫びたくなります。

どんな怪力なんだ、スヒョン!
素手で、やれるもんなんでしょうか?
あの筋肉なら、やれるのか?(笑)

激しい、激しすぎるよ、スヒョン。
てか、演技が凄まじいよ、びょん。(泣)

哀れ、このおしゃべりな猟奇人肉男は、スヒョンに素手で口を割かれるハメに。


余談ですが、この役者さん、一度目はチャンイに、二度目はスヒョンに、口を割かれてるわけですよね。

口は災いのもと。(爆)

ぜひ、三度目の正直で、次回も、彼に口を割かれる役で共演していただきたいものです。←どんな役だよ。(笑)



さて、スヒョンも警察も、すべて、後手に回り、義父も義妹もギョンチョルの毒牙にかかりました。

瀕死の義父を見て、スヒョンは呆然とし、涙を流します。

すべては、自分のせい。
自分が甘かったからなのだ。

きっと後悔の涙でしょう。

そして、悪魔のように狡猾なギョンチョルは、スヒョンの手の届かないところ、つまり自首して法によって裁かれるという手段に出るはずです。

瀕死の義父がスヒョンの手を握ります。

スヒョン、もういい。
もう充分だ。
やめなさい。

そう言っているのでしょう。

今までの流れから、スヒョンを止めるのは間違いありません。


しかし、私は、考えます。

義妹の殺人現場は、きっと自宅だろうと。
義父は、瀕死の薄れる意識の中で、大切なもう一人の娘が犯され、殺されるさまを、聞いていたとしたら?

スヒョン、頼む。
あいつに復讐を。

そんな気持ちが、あの握った手には込められていたのではないかと。

これは、私の勝手な解釈です。



すべてを失ったスヒョンに、ギョンチョルからの挑発の言葉。

スヒョンは、復讐心をたぎらせ、最後の戦いに臨むのです。

そして、スヒョンは、完全に悪魔の領域に足を踏み入れました。
完全なる復讐を、成し遂げるために。
もう躊躇も、甘さも、ないスヒョン。
悪魔と化して、悪魔のようなギョンチョルに断罪を下すのです。

獲物を、ギロチンの下に縛りあげ、煙草をゆっくりとくゆらすスヒョンの姿は、悪魔ギョンチョルさながらです。

しかし、悪魔スヒョンの目は、涙で潤んでいます。

人を捨てた自分への涙か、ここまでしても、晴れない心、ジュヨンを失った深い悲しみのせいでしょうか。


チョンマル、ミアナダ…

といいながら、涙を流し悔い改め、命乞いするギョンチョル。

でも、すぐに本性を現すギョンチョルは、やはり、正真正銘の悪魔なのです。


死んだ後も苦しんでほしい…

そして、スヒョンは、復讐を成し遂げました。

しかし、復讐した達成感も、喜びもありません。
激しい憎悪を向ける場所を失ったスヒョンに残されたものは、果てしない空虚です。

無限に広がる空虚な闇に彷徨うスヒョン。

すべてを破滅に導き、失ったスヒョン。
自分の罪を感じ、結局、破滅と憎しみと深い悲しみしか、生まなかったことへの慟哭でしょうか。


まるで誰かに助けを求めているような…

ラストシーンの深い絶望を背負った男のシルエットは、あまりに美しく、絵画的でした。


スヒョンと同化し、復讐してやりたいという悪魔性と、スヒョンを救ってあげたいと思う気持ち。

そんな気持ちが、自分の心の中で、入りまじる映画でした。
by leejewel | 2011-03-07 16:56 | 「I SAW THE DEVIL」
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